島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第123回

<とぴっく10>
付加価値20倍の女神像

 
1億3000万の女神


1975年バンコクの業者から、
カンボジア美術の中でも貴重な
11世紀のバプオン様式の女神像を購入した。
その価格は700万円だった。
僕は土地を売って少しばかり金回りが良かったので
その石像を買ったのだ。

売った土地は、その後どんどん下がり続け、
今では原価の2分の1くらいになっている。
土地を買ったとき
銀行から借り入れを6000万円起こしていたので、
毎月かなりな返済をしなければならなかった。
今も思い返しゾーッとしている。
よくもまあ、僕のようなものに銀行が金を貸したものだ。
不思議な時代だった。
早めに切り上げたので、1500万円ほど利益が出た。
そんな訳でカンボジアの石彫が僕のところに来た。

「ノリキ、この石像はそのうち大化けするから買っておくといい」
と中国系タイ人のタバシュさんが熱心に薦めた。
僕はその時、商売を離れてもこの女神像に惹かれるものがあり、
買うことにした。
骨董商売では「絶対安い、値上がりする」と言って
詰まらんものを薦められる事もある。
そんなものを買うとえらいことだ。
しかし、彼の薦めぶりから見て、
この女神像はよいものだと確信した。

この項では75年に買った石像に
どうやって付加価値をつけたかということを皆さんに紹介する。
コレクターにとって非常に大切なことなのだ。

女神像を買ってから
僕はカンボジア・プノンペンの国立博物館と連絡を取った。
そして館長と副館長に日本に来てもらった。
まだ混乱期だったので個人の僕の招聘にも応じてくれた。
いくら偉い人と言ってもびびることはない。
彼らを招聘するため、僕はあらゆるルートを使い努力を重ねた。
個人の招待だったので、彼らもビザを取るのに大変苦労した。
ある市の市長に保証人になってもらい、
プノンペンの日本大使館にもコンタクトした。

2月の非常に寒い日、やっと2人は僕の店にきてくれた。
それまでに幾度も電報を打ったり、手紙をやり取りしていた。
一部の重要な案件は
国立博物館の公式レターペーパーを用いてくれるように
小さなことにも気を使った。
勿論それらの記録はしっかりと今も保存している。
いずれ役に立つ。


 
僕の買った女神