島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第149回

骨董と人―笑顔の高僧

 
明交趾形物香合大亀

さる名刹の高僧の話。
和尚さんは大の骨董好きとして広く名を知られており、
骨董や茶の湯の著書も多数ある。
忙しい時間の合間を縫って熱心に骨董屋を訪ね歩くので、
モノもよく見え知識も豊富だ。
僕など時々教えを頂く。

その和尚さんは、こわもてする人で
周りの人など腫れ物に触るような態度で接している。
随分以前のこと、
お寺の応接室で和尚さんと骨董の話をしていた。
ドアを開けて女性の取次ぎの人が入ってきた。
「○○先生がお見えです」
と言いながら名刺を卓上に置いた。
目をやると、
その名前はテレビなどにもちょくちょく出てくる
有名な政治家だった。
ここに僕がいて邪魔をするのも悪いと思い
「出直してきます」
と立ち上がろうとした。

「アンタの話のほうがよっぽど面白い。まあ、ここにいなさい」
と言って、それから延々1時間ほどあれやこれやと話をした。
忙しい政治家を待たしては申し訳ないし、
こんなことをしていてよいのかと気が気でなかった。
「和尚さんいいんですか?」と聞いてしまった。
「1時間も早く来るほうが悪い。よっぽどヒマなやつじゃ。
 待たせておけ!」
僕が聞いたので答えたのか、
再度取り次ぎに来た女性に言ったのか、よく通る声で言った。
隣の部屋にいる政治家には筒抜け状態だ。

又、ある時和尚さんは
僕の知り合いと一緒に芝居を見に行った。
男女の別れの場面でぼろぼろ涙を流し大声で泣いたそうだ。
「私はびっくりしましたよ。
 あの人の泣き場なんて考えられませんからね。
 それに近くの人がみなこちらを見るので、
 いたたまれませんでした。
 なんせ、目立つ人でしょう」
と言って身振り手振りでその場の出来事を再現してくれた。
思わず笑ってしまったが、
和尚さんの物凄く心臓の強いところと、
細やかな情を持った一面を表している。

                   (つづく・・・・)