島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第158回

骨董と人―カジノ、金が入るシステム作り

漢 灰陶加彩馬俑

2,3Fにも先程の店と同じような運び屋を兼ねた骨董屋がある。
狭いエスカレーターを駆け上がった。
そして2階の女店主の店に入った。
ここで素晴らしい唐の加彩馬を見つけた。
大きさも手ごろで傷も少ない。
駻の強い顔とパッチリとした目、尾には花が巻きつけられている。
何より早く走りそうなサラブレッドだった。

値段を聞くと4000USドルだと言う。
彼女はどんなに値切っても、
いつも5~10%くらいしか値引きをしてくれない。
この買い物も3500ドルで手を打った。
そこへ先程の秘書連れの老紳士が入ってきた。
「又会いましたね」と今度は彼が英語で話しかけてきた。
しかし全く僕の顔を見ず、テーブルの上の馬を見ている。
これはもう買うと約束しているので先程と違い、安心だ。

彼が中国語で女店主に何事か聞いている。
「売れたのか?幾らだ」と言っているようだ。
「この馬売ってくれませんかと、聞いてますが?」と女店主。
「ダメですよ。下でひどい目にあったんだから」
「6000USドルで是非譲ってくれと言ってますよ」
グラッと来たが断った。
すると老紳士が僕のほうに顔を向けた。
「馬が好きでコレクションしているのですよ」と言い出した。
「この方マカオの○○さんと言って競馬場のオーナーの一人です」
と女店主が僕に紹介してくれた。
そして「カジノも二つ持っているのですよ」とさらに付け加えた。

競馬場やカジノビジネスは
景気の好不況にあまり影響されないらしい。
景気がよいとギャンブラーにも金が回ってきて一瞬の夢にかける。
不景気になると一発なけなしの金を張る。
カジノのオーナーには
どちらに転んでも売上の数パーセントが入る。
それに他のビジネスと違って、
一度設備投資をしてしまうと後はよほどのことがない限り、
金が毎日流れ込んでくる仕組みだと彼女がいった。

金持ちになろうと思えばこんな仕組みを作ればいいのだ。
認可や資本で苦労はするが、
思えばNTTもボーダフォンも免許を取って線を引いて、
じっとしていれば通話料が入ってくるので
同じようなものかもしれない。

僕は自分の生き方に誇りを持っているほうだが、
しかし情けないことに競馬場とカジノのオーナーと聞いて、
口が意思に拘わりなく声を発してしまった。
「いいですよ」彼は僕の方を見ず、
女店主に二言三言指示し行ってしまった。
冷たい横顔をにこりともさせずに。