初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
 
第16回
 
続 危ない中国骨董商との話
 

何度が大きな取引をした

中国骨董商の大人王さんから

ある日僕の店に電話がかかってきた。

「ノリキさん、今日大陸から

大変良いもの来ました。

 ちょっと値段が張りますが買いますか

と言う。

これまでの取引で一度も

トラブルがなかったので、

大いに期待して僕は

香港行きの機中の人となった。


ターミナルを出ると例によって

大型ベンツが僕の前に横付けられ、

まっすぐ王さんのマンションに行った。

広いマンションの一室に名品が

ずらっと並んでいた。

聞いてみると2日前に

到着したばかりで、

まだ誰にも見せていない

とのことだった。

彼を信じきっていたので、

そこににある品物は

どれもこれも素晴らしく、

欲しいと思うものばかりだった。

明代の景徳鎮窯で焼かれた

官窯の染付盤、

遼三彩の牡丹文大皿、殷の銅器など、

一流美術館の重要な展示物と

比較してもまったく遜色がない。

しかし、マンションの部屋が

その時いつもと違ってやや薄暗く、

見づらいなと心の中で思っていた。

しかしそんなことは全く気にせず、

並べてある品々を夢中で

チェックしていた。

気に入ったもの2,3点取り上げて

「幾ら?」と聞くと

「今回は色々な経費もかかっているので

少し高いが大丈夫か」

と僕を労わる様に聞く。

こちらもつい頑張ってしまって

かなりな金額を買い付けた。

渋る王さんを説得して、

そのうちのいくつかをホテルに

持ち帰った。


部屋に入って冷静になり持ち帰った

作品をじっくり眺めると、

何か少し異質なものを感じた。

そこで古傷や、土臭、カセなどを

細かくチェックした。

すると本当に良く出来てはいるが

持ち帰った全てのものが

コピー作品だった。

すぐ王さんに電話をかけたが、

空しくジー、ジーと呼び出し音が

鳴るばかりだった。


翌朝彼を捕まえたところ

態度がガラッと変わっていた。

「アンタあれだけしっかりと自分の眼で

見て買うと言ったじゃないか」

「でも王さんだって

 トラブルがあれば保証すると

何度も言ったじゃないか。」

「今回はそんなこと言わなかった。

 アンタの判断で買ったのだからな」

そう言えば今回の取引には

一度も保証するということを

聞いてはいなかった。

以前に幾度も聞いていたので

今回も同じようにしてくれると

思い込んでいたのだ。

騙す人より騙されるほうがアホなのだ。

中国骨董商との取引は本当に

細心の注意を払わなければならない。

相当長い間仕込をやられて

一挙にガバッと損害を被ることがある。

勿論良い人もいるのだろうが

未だめぐり合ったことはない。

僕の支払い方法はいつも品物と

キャッシュの交換だったので

ホテルに持ち帰ったものだけの

損害ですんだ。