島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第162回

デフレを乗り切る骨董―平賀源内の発想―セレブ御用達
源内焼日本地図皿(江戸中期)

僕は平賀源内の発案、デザインによる
源内焼という焼き物を収集している。
その関係で平賀源内という人物をいろいろな角度から見つめた。
すると興味深い姿が浮かんでくる。
彼のアイデアの中に、
今われわれが苦しんでいるデフレを克服する知恵が見える。

彼が生きた江戸中期から後期にかけては、
空前絶後の長いデフレの時代だったからだ。
経済の中心財である米の値段が上がらず、
伊万里焼などの工業製品も粗製乱造となり、
海外からも見放されていた。
硬直化した幕府政治は近年の政治状況とも似ているように思われる。

さて、源内は本草学、蘭学、戯作、鉱山開発、
西洋絵画までやるという多彩な才能の持ち主だ。
彼のアイデアで生み出された作品中、今日良く知られているのは、
金唐紙、量程器(万歩計)、
タルモメーター(アルコール温度計)、
火浣布(アスベスト布?)、源内沈香櫛、エレキテルなどがある。
源内は日本中を沸かせる科学・工芸品を製作し、販売している。
さらに土用丑の日にうなぎを食べると言うコピーも
源内の発案によると言われている。
彼の名とすぐに結びつくエレキテルは、
どうやら医療用に用いられたようだ。

また彼は話題作りも上手だった。
新し物好きの江戸っ子の心を掴む名人でもあった。
一介の浪人ではあるが田沼意次や各地の大名家にも出入りし、
彼らの後ろ盾を得ている。
彼が生み出した作品は当時としては最高級品で、
普通の人が購入するのは躊躇われるような値段だったらしい。
海外の新しい技術を真っ先に取り入れ、
富裕な人々の心を十分に満足させている。
セレブ御用達の品作りに彼のアイデアを見る。
源内はこの工夫でかなり稼いだと言われている。

                     (続く・・・・)