島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第167回

儲かる骨董-実行編
2、骨董もブランド志向
古伊万里吹墨の兎(イメージ)

骨董に流行り廃りがあるといえば、
知らない人は「へぇ~!」とびっくりする。
骨董と言うからには
最低でも150~200年くらい経っていなければならない。
僕らが取り扱う品は、1000年や2000年経っているのはザラ。
だからそんな古いものに流行があることは、
あまり知られていない。
しかしきっちりあるのだから用心しなければならない。
価格が大幅に動くのだ。
僕の骨董経験はせいぜい30数年のこと。
この道50、60年も経験した人なら
流行り廃りの大きな波を5、6度はくぐっているはずだ。
それでは僕なりの経験を書いてみよう。

30年ほど前、Y先生という古伊万里の研究家がいた。
本業はお医者さん、風貌は経済評論家の内橋克人先生に似ている。
その先生が古九谷、有田説を発表された。
業界は、このことでかなりにぎわった。
さらにY先生は古伊万里の本をどんどん出版され、
次々と新しい切り口を展開していった。
事実を検証し、それまで古伊万里という
大雑把なくくりであったものを、
初期伊万里・盛期伊万里などと時代も分類し、
魅力的な伊万里の世界を世に問われた。

すると初期伊万里など、
それまであまり注目されなかった作品が大きく値を上げだした。
初期伊万里(161年頃~1670年頃)の吹墨の兎の図などは、
直径21cmくらいのもので
焼き上がりが良いと300~350万円位するようになった。
こうなると火がついたように
皆初期伊万里の作品を求めるようになった。

「先生、初期の良い皿ありませんか?」と尋ねたところ、
「沢山持っていたが、もう一枚もないよ。
 次は中期だな!僕は今『盛期の伊万里』という本を書いている。
 絵付の良いのを買っておきなさい。」と手の内を見せてくれた。
「それ2、3点譲ってください。本に収録されるのを」と言うと、
「自分で集めなさい」とびしっと決められた。
そのブームに乗って、多くのコレクターが盛期伊万里を買った。
その兎の皿は今せいぜい120~150万くらいだろうか?
骨董のマーケットなんて狭く、浅いものだ。
誰が何をやっているか注意しているとよく見える。
株や土地、金なんかよりよほど分かりやすい。
マーケットが巨大だとどうしても色々な要素が絡んでくる。

骨董は値下がりのカーブもまたゆっくりとしている。
敏感なコレクターが売りに回っているときでも、
他のコレクターはまだせっせと買っているという調子だ。
美術館の展示や出版物、雑誌の特集などに目を配り、
熱が上がる前によい物を選び、そしてピークを逃さず売る。
こんな目配りをしながら骨董を楽しもう。
ブランドはこうして作られる。

魯山人、九谷、ガレーやドームなどのアールヌーボ、
この20年ほどの間に色々なブームが何度か生まれ消えている。