島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第177回


儲儲かる骨董-実行編
12、あせる日本人、一代50年の資産意識

10世紀ビルマパガン朝磚仏

タイでもフィリピンでもインドネシアでも
金持ちの共通した意識だ。
恐らくそれは、華僑の金銭哲学なのだろう。
フィリピンなどでは
スペインの家族意識が息づいているのかもしれない。
自分ひとりの時間ではなく
数代に渡って家族を守ると言う考え方で時間を味方につけている。
自分一代でやる事と、
二代三代にわたってじっくりと時間をかけて育てるものとに
分けているのだ。
当然骨董は後者のジャンルに入っている。
持つこと、見ることの楽しさ、
資産としての楽しさの両方を味わうのだ。

それに対し日本のコレクターは大変気が短い。
時間を敵に回してしまっている。
5年、10年とコレクションを収集すると
その処分に頭を悩ますことになる。
年配のコレクターになると
「僕にもしものことがあると、悪い骨董屋にだまされ、
 コレクションを二束三文に買い叩かれるから
 今のうちに処分しておきたい」
とか言うから本当にそうなってしまう。
とても悪いタイミングに大切な収集品を売っているのだ。

また、
「コレクションが逸散してしまうから美術館に寄贈したい」
という相談も受ける。
これなどよくよく考えたほうがいい。
事の良否は別にして、
前記したような落ち着いた三代、四代に渡る
長期のコレクションが出来ないものだろうか。
その過程では収集したものが値上がりすることもある。
今つまらないと思われているものの中から、
骨董としての資産価値を有するものが生まれることも
多々あるだろう。

この項で言いたいことは骨董を収集するならば、
息の長い戦略が必要なのだ。
昔、日本の資産家の蔵の中には、
何代にも亘る骨董や美術品があった。
昭和初期の売り立て目録を見ると
大名家や豪商でさえ骨董を売って息をついた時期があるのだ。
それがいつの間にか一代限りになり、
骨董収集の形が変わってしまった。