島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第29回
商品学(中国陶磁編)
2.漢緑釉(1) 滾々と湧き出る中国骨董の代表

30年ほど前、あるコレクターの家で漢緑釉の壷を始めて見た。
高さ35センチくらいの壷で周囲に狩猟文が施されたものであった。
文様はボヤッとしていて
緑釉のコンディションもあまり良くなかった。
しかしそのコレクターには自慢の逸品だったらしく、
箱から取り出す時恭しく一礼した。

「これって何ですか?」と聞く僕に
軍鶏みたいなきつい睨みをイッパツかまして
「漢緑釉でしょう!駆け出しだから分からんと思うけどな。」
と、いやみを言いつつ取り出した壷を
黒檀の座卓の上にそっと置いた。
「へー、これが漢緑釉!」
僕も名前は聞きかじっていたが、
本物を見るのは初めてだったので
「幾ら位するんですか?」と聞いた。
ぐっと胸を張ったコレクターは血走った目で
「これはね大阪のH軒で買ったんだが、これだけ」
と言って5本の指を立てた。

50万くらいかと思っていると
後ろでボソッと500万と言ったのにはたまげた。
素人には見せるものじゃないと言う態度で
早々に布に包もうとしたのを、無理を言って手元に引き寄せた。
そして高台辺りを見せてもらった。
3箇所重ね焼の為の目跡がついている。
割れ口は赤いレンガ色で、正直言ってあまり美しいとはいえない。
Iさんが仰々しくしているので
「いいですね。」と愛想笑いしながら仕舞うのを手伝った。

それから15年が経った。
香港に行くと
あちこちの店で漢緑の大壷が店頭に並ぶようになった。
値段を聞いてみると意外に安い。
かなり良いもので、
以前コレクターのIさんに見せてもらったものなど
比較にならないほどの代物だった。
それが1点70万くらいだというので3個買った。
持ってかえって90万円の値を付けたら
その場で全部売れてしまった。

すぐに香港にとって返し、同手のものを購入したが
値段はさらに下がっていた。
しかし持って帰って売ろうとすると、売値も下がっている。
と言うわけで仕入も下がるが売値も下がると言う感じで
瞬くうちに売値がかなり良い物でも
30万円台くらいのところにきてしまった。