島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第47回
商品学(ベトナム編)
3.ベトナム陶磁 II―わらしべ長者も交渉次第

東南アジアではどこの国でも
紀元前の土器や銅器をドンソンと呼んでいる。
インドネシアやフィリピンなど島礁部でも同じだ。
しかし正確なドンソン文化は、
ベトナム北部、紅河流域に生まれた
インドシナ半島における古代文化である。
それはBC4〜AD1世紀までのことをさす、
ベトナムのタインホア省の
ドンソン遺跡から取った呼び名である。

ドンソン文化で良く知られているのが銅器である。
中でも銅鼓が特に有名でユニークな形状から
多くのコレクターが蒐集している。
この銅鼓の広がりは
雲南省からインドシナ半島の殆どを網羅している。
やや時代は下るが
インドネシアやフィリピンのような島々まで
広がりを持っている。

直径が10センチほどの小型のものから
1メートルくらいの大型のものもあって、
円柱型の平底鍋をひっくり返したような形状である。
上部のドラム部分と側面に
通常飛鳥文や流水文のような
幾何学的な文様が施されている。
それらは日本の銅鐸に施されている文様とよく似ている。
ドラム部分には蛙や鳥、意味不明の動物などが
4、5箇所突起状に鋳込まれている。

叩くとコンディションの良いものは
今でも良い音色を発するものがある。
不思議なことに外部から閉ざされた
カリマンタンのジャングルの中の村で
この銅鼓を見つけたことがある。
現地の人に聞くと、
「どこで作ったのかと良く分からないが昔からある」
といわれ非常に驚いた。
その村付近には精巧な蜜蝋を使った鋳金技術は
どこを探してもなかった。

銅鼓は状態から見て
数百年か千年を超える時代があると思われた。
近年に写し物が数多く作られているので
注意しなければ成らないが、
東南アジアの経済の発展から考えて
いずれは貴重なものになるだろう。

雲南省には洋角鐘と呼ばれる17,18センチの銅鐸がある。
雲南省から北ベトナム辺りに住んでいた少数民族のもので
前漢時代の古墳から出土している。
それよりやや小型のものが
北ベトナムからカンボジア、ラオスなど
広範な遺跡から昨今、あちこちで出土している。
加えて大型の銅鐸がカンボジア南部からタイ国境において
ごく少量だが出土している。
それらは側面に流水文や幾何学文の美しい鋳込みがある。
高さが60センチ近いものなど
時代を超え国を超えた世界の至宝と呼んでよいだろう。
BC2世紀から紀元頃に
このような鋳金技術があったことは
もっと評価されるべきである。

朝鮮半島や我国の弥生遺跡から発見される
銅鐸などとの関連も考えられるのではないだろうか。
稲作文化における銅鐸の役割などは
広いアジア地域の銅器の研究をすることによって
新しい局面が見えてくるかもしれない。
それらの作品群が今まさに出土し
世界中に散っているのだ。
残念なことに日本の研究家やコレクターは
その重要性にまだ着目していない。
この辺は将来必ず評価されるに違いない。
また玉器、ガラス、鉄器、土器など
幅広い作品群についても見つめていく必要があろう。