島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第55回
商品学(タイ編)
3. タイの仏像 贋作の微笑み(T)


タイを旅すればどこに行っても仏教寺院を見かける。
観光とは即ち古い寺院を訪ねることと
同意語のようなものである。
寺院の内部には巨大な金銅仏や大小様々な仏像で満ち、
堂内は神々しい雰囲気が漂っている。

その仏の前に老若男女がひざまずき
線香の煙をぼうぼうと立て、真剣にお祈りしている。
祈りの証として霊験あらたかな仏像などは
顔や手足の形が見えなくなるほど
金箔が貼り付けられている。
中には仏像の形を残さず
金箔で丸くなってしまったものなどもある。

こんなに信仰心の厚いタイ族のことだ。
仏像製作についても精魂込めて作り上げて
名品が非常に多い。
タイ北部、チェンマイを中心として
13世紀頃から16世紀くらいにかけて
チェンセン仏が作られている。
この仏像は頭の突起部分が宝珠形でやや体格が良い。
しかし、タイ人はスコータイ仏に比べると
チェンセン仏は評価を下げているようだ。

チェンセン仏も14,15世紀になると
スコータイ様式に似た卵形の顔立ちになる。
中部タイに成立したタイ族の信仰した仏像の顔が
北部タイチェンセンの仏像製作にも影響を与える。
しかし15世紀後半になると
またチェンセン独特な丸顔に戻っている。
タイの仏像は常に大きな勢力が生まれると
その形式をならって全体が変わっていくので
中心になる勢力の仏像様式を捕まえるとほぼ年代が掴める。

僕は30年ほど前、
まだそんなにこの地方の仏像について
大して知識を持っていなかった頃、
どんな金銅仏を見ても皆良いように見えて混乱していた。
しかし、沢山の仏像を見ている時に
ある種の見分け方が身についた。
仏像のような信仰心を持って作る作品には
時代ごとの様式の変化や持ち物の決まりがある。
たとえば火炎や宝珠型の頭頂部の形が
時代ごと区分があったり、
肩から下がる肩布の長さが違うという風に
はっきりとした考証がなされているのだ。
このことが分からないと、
いいなあと思うだけで
タイの仏像を入手することは止めたほうがよい。
                    (次回につづく)

 

 
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14、15世紀 チェンセン仏宝珠
 
15、16世紀  チェンセン仏