初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第62回

商品学(インドネシア編)

2. バティックで大儲け、

ホテルを手に入れた話


骨董に興味がない方は

着古した布が一枚20万から30万円も

すると聞けばひっくり返るだろう。

昔は僕も同じようなものだった。

初めてそんな布と遭遇したのは

ジャカルタの暑い昼下がり、

とある小さな家の土間でのことだった。

「これが印金更紗だ」といって

布に金箔を貼り付けたものを

顔見知りの口利き屋が取り出した。

先ほども同じような話を

「言い値で売れる」と

クボンスリーチモールダラームの

ある骨董屋で聞いていたので、

彼の話にひきつけられた。

薄い絹地に花柄や鋸葉文が描かれた

上に金箔がペたっと付けられ、

洗いさらされた古布だった。

手にとって見ると独特のダラッとした

絹の感触が心地よかった。

こんな布を今仲買人たちがあちこちで

買い集めているのだ。

バンドンやカリマンタン、ジョグジャカルタ

辺りの旧家へ行って集めていた。

おばあちゃんの時代に

使われていたものだ。

ショールや巻きスカートなどで

印金の施された上等なものは

インドネシアでは代々大切に

使われている。

金箔の入った布はまつりや結婚式などの

晴れ着なのだ。

貧しいインドネシアの農民は自分一代で

買えないから上等の布ならば

2代、3代と使っている物がある。

何故急激にそんな布の値段が

高くなっているかというと、

ジャカルタの目端の利く骨董屋

ジョディさんが買っているからだ。

彼はある時オランダのディーラーから

バティックの古いものや印金更紗を

集めてくれと頼まれ買い付けた。

それを5倍くらい吹っかけても、

そのディーラーがドンドン買っていった。

そんなことを一年ほどやっていると

アメリカやイギリス、日本などからも

業者がやってきた。

本業の陶器や石像彫刻などより、

うんと良い商売になった。

手を広げて仲買人を島々に派遣し、

さらに買い付けを強化した。

ちょうどそんな時僕もジョディさんの

テキスタイルの仕入れに興味を持った。

2階の彼のストックを見せて貰ったところ

直径3センチほどに巻かれた印金更紗は

数千枚を優に超えるほどの

量になっていた。

それから一年も立たないうち

再度二階に案内してもらったところ、

そのストックの殆どがはや

売りつくされていた。

ジョディさんの販売力に舌を巻いた。

僕も2,3枚買おうと思って

「見せてくれ」と頼むと、

「いいよ」といって畳一枚ほどの布を

サーッと広げ、「3000ドルだ」というのだ。

1年前クボンスリーの口利屋は

100ドルといっていた。

もしジョディがストックを1枚3000ドルで

売ったとすれば

ものすごい利益が出ているはずだ。

骨董でも最初にアイデアを掴んだものが

成功する例は幾らでもある。

ジョディさんはその後、

市内中心地に結構いいホテルを買い、

プール付の豪邸を手に入れた。

僕もいつかあやかりたいものだ。