島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第68回
商品学(カンボジア編)
1. 陶磁器―安物買いは銭失いのケース


インドシナ半島中央部に位置するカンボジアは
古い歴史を持ち、広大な領土を有した国だ。
この国の工芸品は素晴らしい。
陶器、金工、石彫、木竹、布など
様々な素材を用いた世界に通用する作品を生み出している。

カンボジア(クメール)美術はヨーロッパでは、
あの小うるさいフランス人からも熱い支持を受けている。
カンボジアは1953年までフランスの植民地であった。
それと1860年、
アンリ・ムオーの『アンコールワット発見』により、
フランス人の興味がクメール美術に向かったのである。

東南アジアで最初に
釉薬を施した陶器が作られたのはカンボジアで、
7,8世紀のことである。
それらは主として宗教的な祭器として用いられたようだ。
クメールの陶器は
フランス人たちの興味を引かなかったと見えて、
ギメやプノンペン国立博物館にも
あまりよいものは収蔵されていない。
彼らは陶器をマイナーな作品として見ていたのだろう。
しかし昨今タイの市場では
このクメール陶器がびっくりするくらい高価なのだ。
高さが50センチを超える水壷など
完器であれば1万ドル以上の値段が付いている。
古陶磁の愛好家が世界で一番多いのは日本なのだが、
まだこのクメール陶器にはそんなに触手を動かしていない。

昨今日本人の古陶磁好きがアジア各地に飛び火し、
火がついているのがタイだ。
今後東南アジアの古美術マーケットで
クメールやミャンマー、ベトナムやタイの焼き物が
大きく成長するだろう。
そうなればカンボジアの古陶磁は古さといい、形状といい、
希少性に関しても十分にトライする値打ちがあるものだ。
何しろクメール陶磁は一番新しいといっても
鎌倉初期に相当する。

しかしこの頃タイのチェンマイあたりで
本当に精巧な偽物が作れている。
なじみの少ない焼き物だけに
旅行者などが結構引っかかっている。
チェンマイでの話。
日本の旅行者が散々口説かれていた。

「あなた、これ見て!この本に載っているのと同じ」
見れば僕が書いた東南アジアの古陶磁の手引書だった。
声をかけようと思ったが、その骨董屋の主人とは顔なじみだ。
彼は僕に何も言うなと目で制止してきた。
「じゃあ、買うか」といって
カモが取り出した金は2000バーツほど、
日本円にして6000円ほどだ。
象型の肖形壷はオリジナルで
いい状態のものは最低でも13万バーツ(約40万円)はする。
だます方もだます方だが買うほうも買うほうだ。

見ず知らずの人から
よく鑑定してくれと持ち込まれ迷惑している。
「これはダメです。写しです」
とでも言おうものなら最後。
「なぜ?」「どこが?」と果てしなく質問されたあげく、
「あなたは何も知らない」といやみさえいわれる。


 
   
 クメール水壷 (11,12世紀)  クメール褐釉象(12,13世紀)