島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第72回
商品学(カンボジア編)
5. 竹工作品−偽ドルが通用する不思議な取引


ベトナム軍がカンボジアに侵攻すると、
あの悪名高いポルポトやその一派は
タイ国境のジャングルに逃げ込んでしまった。
そしてベトナムが開放政策をとりだしてしばらくすると
カンボジアへの細い一本の道が開けた。

バンコックーホーチンミンープノンペンと
飛行機を乗り継いで僕はカンボジアの首都に足を踏み入れた。
王宮前シュムレアップの河波が
きらきらと夕日に輝いていた。
しかしフランス風のシックな街も石畳がはがされたり、
建物が壊れていたりでどことなく寂しい。
道を歩く人は皆小柄でとぼとぼと歩いていた。

入国の際びっくりしたことがある。
1000ドルを両替したのだが、
受け取ったリエル(Riel)はものすごい量だった。
使い古された大小様々なリエル札を
輪ゴムにまいて100万円くらいの厚さにして50個くれた。
値打ちのないお金かもしれないが
キャッシュであるから気になるし、
持って歩くのも重くて非常に疲れる。

すごいインフレ、いわゆるハイパーインフレかと思っていたが、
屋台で蕎麦を食っても、
市場で蓮の実やココナッツジュースを買っても
その束から1,2枚金を抜くだけでたりるのだ。
しかしホテルの支払いや
外国製のシンハー、ハイネケンビールなんかに使うと
ゴソッと札束が消える。

僕はプノンペン市内の自由マーケットに
重たい札束を下げて行った。
中に30軒ほどの骨董屋があり、結構掘り出し物があった。
中の3軒ほどが竹籠や木工品を沢山積み上げて売っていた。
まとめて30個ほど買った。
花入に使える大きさのもので
日本では結構よい値で売れるものだ。
例の重たい札束で支払おうと思ったら断られた。

「ダンナ、ドルでください」と大きな手を差し出してくる。
「そりゃいいけど100ドルでつり銭あるのか?」と聞いた。
今もっているリエルの上に
さらにリエルのお釣りを受け取るとタマラン。


 
 
 
竹籠魚籠花入 19世紀