島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第73回
商品学(カンボジア編)
6. 竹工作品−北朝鮮製のドル?


「ドルでお釣りを払いますよ」と迫ってくるから
パリパリのインク臭いドルの新札を渡してやった。
すると台の下から現地通貨と同じくらい汚れた
クタクタの1ドル札を輪ゴムでとめたものを85ドル分くれた。
「もっときれいな札はないの?」
と聞いても、知らん顔の半兵衛で
嬉しそうに百ドル札を自分の胸ポケットに入れてしまった。
どうやら市場では現地通貨がかさばる為
小額のドルで取引をしているらしい。

竹籠のよいものがまだもっと欲しかったので
郊外の骨董を集めているという村に行った。
自由市場より遥かに品物の数は多いが
殆どのものは新品みたいなものであまり欲しいものはなかった。
しかしここまで来たんだからと思い
20個ほど選んで買うことにした。

聡い感じの村人が
「ダンナ、全部で20ドル」というから
値切り倒して10ドルに負けさせた。
自由市場で受け取ったつり銭を使おうと
くたくたの1ドル冊10枚を渡した。
すると男がもう10ドルよこせと怖い顔をする。
そこで男と言い合いになった。
ガイドがやってきて
「アンタのドルは偽札だからもう20ドル払いなさい」というのだ。
「何!どれが偽札なんだよ」
と輪ゴムでとめてあった札束をガイドに見せた。
「これ全部偽札です」とガイドが僕に言うのだ。

それにしても不思議な話だ。
10ドルの買い物をして偽札20ドル払えば
オリジナルな10ドル分になるのだ。
簡単に言うと本物のドルの半分の価値で
偽ドルが広く通用しているのだ。
それからだいぶたって、
カンボジアで北朝鮮から来た日本のよど号事件関連の男性が
偽札を持ち込もうとして逮捕された事件があった。
詳しくは知らないが
物をスムーズに流通させる為
偽札でも半分の価値で流通させてしまう。
カンボジアの人々は竹細工のように複雑なことをやってしまう。

ここで入手した鉈の鞘は使い古されてあめ色につやが出ている。
金具を付けて花入に用いるものだ。
びくは置き花入、蓋付の籠は茶籠にと持って帰った品々は
皆飛ぶように売れた。
カンボジア人は手作業の器用さでは
東南アジア一のセンスを持っている。

注意:昨今フィリピンやインドネシア、ミャンマーなどから
    竹製品の新しいものが山ほど出てくるため、
    この種のものが売れにくくなっている。


 
 
 
鉈鞘花入 19世紀