骨董の商売をしていると
時々こんなことを言われる。
「あんたの商売はいいね。
物が痛むことがないから。
それに流行も無いから
在庫していても安心だね」
確かに骨董屋の商品は傷むこともないし
流行も無い。
古くなれば古くなったで
時代が付いてくるし、
茶碗なんか使っているうちに
値打ちが上がることもある。
しかし、仕入はどこかの問屋が
持ってきてくれるわけでもなく、
世の中の流行に乗って
商売ができるわけでもない。
自分のカンで「エイ!ヤ!」と
買い付けるのだ。
それだけにいい買い物が
できると、とても嬉しいが、
逆に買い付けてからぼろぼろ
欠点が見えてくるものもある。
何年経ってもこれが頭痛の種だ。
売れ筋で誰にでも好まれるような
良いものは仕入れ値も高い。
以前100万も出して仕入れたものを
「アンタこれはいいものだけど
100万で譲れ。」と
散々に値切られ105万で売ってしまった。
その間6時間ほど抹茶やコーヒー
出前の弁当まで取って、
顔は愛想笑いでしわだらけになり、
へとへとになってしまった。
客は韓国財閥の御曹司だとか
言っていっていたが、
あんなにシビアな値段交渉をするのだから
きっとソウル辺りの骨董屋に
違いないと今も思っている。
ともあれ、いいものはこんな風に
すぐ売れるが
切手みたいなもので殆ど利益が無い。
しかし骨董屋にも少し息がつける
仕入のチャンスがある。
あるとき店に電話があり、
「売りたいものがあるのだが
買ってくれませんか」と言ってきた。
話を聞いてみるとまじめな感じがする。
「出来れば写真を送ってくれませんか」
と言うと、
「明日持ってゆきます。」と
積極的なアプローチであった。
翌日品の良い男女二人ずれがやって来て
5点ほど作品を取りした。
うち三点は喉から手が出そうに
なるくらいの魅力ある
宋代の白磁だった。
あとの2点はあまりぱっとしない
備前と信楽の壷だった。
宋代の白磁はすぐに売れるもので
これだけを買い取りたかったが、
2人は備前と信楽の壷セットでなければ
売りたくないと言う。
「他の店へ持っていって
そこで売れなければ
また持って聞きください」
と言っていったん商談を打ち切った。
2人は荷物をまとめて外へ出て行った。
だめかなと思っていると
3時間くらいして申し訳なさそうな
顔をして戻ってきた。
「やはりあなたの店で買って頂きたい」
と言って、先ほどの包み紙を
こちらへ押し付けるのだ。
「あなたの店は本当に親切で、
良心的だということがわかりました。」
と、こんな風に持ち上げられると
やはり男の花を見せたくなるものだ。
とうとう抱き合わせで買ってしまった。
3点の中国陶磁はすぐに買い手が付いたが
信楽と備前の壷は買値のこともあって
ほとほと手を焼いた。
骨董に半端ものはない。
思い切り安く仕入れるか、
とてもよいものを買うかしかない。
中途半端な買い方をすると
とても苦労する。
くれぐれも半端な買い方をしないよう
きちっと目的を持ってトライすること。
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