彼はまた椅子に座りなおした。 「あのね、今日ここへくるまでに京都で7億儲けた。 たった2時間のことだよ」 と顔を上向けた。 「ここでは金儲けの話はせんでくれ。金を使う話をしてくれる?」 と言うのだ。 僕は片道6時間も掛けてタイまで行って、 汗だらけになって買い付けをやる。 そして1時間一生懸命楽しい夢をAさんに見てもらい 15万儲けさせてもらった。 何か空しい。
「君ね、この仕事初めて12年だけれど 今資産が4200億ほどある。 この金でうまいものを食い、酒飲んでいたら身体を壊す。 それにでっかい家が10軒ほどある。 毎日寝る場所変えていたら忙しくてかなわん。 どうしたらいい?」 彼は42歳。 「君、間違ったらいかんよ。儲け話より使うほうの話ね」 と言いつつ、ロールスロイスに乗り込んで、 忙しげに運転手に行き先を指示し、前に突き出しいってしまった。
1990年頃、こんな人が小さな僕の店にちょくちょく来ていた。 しかしその後のバブル崩壊で、 今では一人もいなくなってしまった。 彼らは家や車、絵画や遊びに ダイナミックなお金の使い方をしていた。 しかしどういう訳か骨董に大金は使わなかった。 この原則は今のIT長者にも生きている。
骨董を理解してもらうには長い時間の付き合いが必要だ。 浮き沈みの激しいビジネスの世界で急激に儲ける人が多いが、 長く続かない。 骨董ビジネスはこんな事を考えてやらなければならない。
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