「こんなのどこから持ってくるの?」 とRさんに聞くと、 彼の走り使いをしている柄の悪そうなSと言う男が 横から声をかけてきた。 「中国大陸よ」 と、変なイントネーションの日本語で言った。 「それは分かっているけれど、品物チェック受けるでしょう」 彼は大きく頷いた。 「フリーパス。大物○○の息子が持ってくるからね」 というのだ。 ○○は政治に疎い僕でさえ知っている中国大陸の大物だ。 その名をほぼ毎日新聞で見かける。 「ほんと?」と問いかけると、 「今度会ってみるか?」と言うのだ。 会ってもしょうがないし、 詰まらんことにかかわって事故でも起こしてはと思い、断った。
Rさんとの取引はそれから2年ほど続いた。 このルートは良いものがどんどん出てきたが、 あることをきっかけに取引はストップした。 香港を舞台に仕事をやった2年ほどは本当に素晴らしかった。 いくらでも値打ちの骨董が湧き出てくる 僕にとってはパラダイスのようなところだった。 日本では中国陶磁が高価だったし、 大陸からはどんどん名品が出てきたので、いい仕事が出来た。
しかしそんな良いことは長続きしないのがこの世の常。 中国古陶磁の大量出現で価格がどんどん下がり、 しばらくすると面白さが失われてしまった。 RさんもSさんもいつの間にか香港から姿を消していた。 最後に会った時、彼らはアメリカに行くと言っていた。 Sさんなんかはアフリカのパスポートと、カナダ、 そしてどうして入手したのか アメリカのパスポートまで持っていた。
最後に一言。 今流れが逆になっている。 骨董は日本が世界で一番安く、 中国や香港などでは急速に値が上がってきている。 この動きを捕まえて、ひと勝負するのも面白いかもしれない。 骨董屋はいつも椅子に座ってボーっとしているようだが、 結構機を見るに敏だ。 もし、今このビジネスを立ち上げるならここを突け。 健闘を祈る。
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