初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第14回
 
陥りやすい欲と二人連れの話
 

「ノリキさん、いい話があるんだけど」

タイの山奥でビルマ陶磁を

買い付けていた時

山岳民族の中でちょっと目端の利く男が

声をかけてきた。

この辺の人は結構素朴で

正直な人たちが多い。

だから彼の話も頭から信じ込み、

何か良いものでも探してきたのかなと

思って耳を傾けた。

「何があるの?」と聞くと、

「昔の墓があっていろんなものが

埋っているところを知っている」

と言うのだ。

僕はこの辺りからたくさんの

古陶磁が出ているのを知っていたので

そんなもの一つだろうと思い、

「それ誰かに言った?」と聞いた。

「まだあなただけ」と

囁くように言うのだ。

「じゃあこれからすぐに行こう」というと

「明日にしてくれ」と言われた。


その日は国境の町タークまで引き返し

翌朝早く彼の家へ出かけて行った。

すると3人の目つきの悪い男が

一緒に行くから車に乗せてくれと

同行を求められた。

どこまで行くのと聞くと、

「この先1時間ほどの場所に

品物を置いてある倉庫がある」

と言うのだ。

この話どこか焦げ臭い匂いがする。

始め昔の墓があって色々な物が

埋っていると彼は言ったのだ。

それが1晩過ぎると

倉庫にストックしているという風に

変わっている。

彼ひとりかと思ったら柄の悪い同行者を

2人連れてきている。


僕は嘗てこれに似た話で

大変な取引に巻き込まれたことがある。

山深いビルマ側の村に入ってしまい

十人ほどの男達に取り囲まれ

山刀で散々に脅されたことがあった。

欲が絡むと人は自分に良い方に良い方に

考えてしまい失敗するようなことがある。

相手の話をしっかりと聞いて

言葉を常に分析しながら物を

見ると言うことが大切だ。

骨董でも欲しいものや安いと思うものには

結構この種の話があって、

失敗することが多い。

陥りやすい話には必ず

自分の思い込みがある。