Bさんはいつも最高級のロールス・ロイスでやってきた。 億万長者4人組の中では一番若く、パワーがあった。 彼にはこんなエピソードがある。
大阪Hデパートでフランスの女流画家の展覧会での出来事だ。 彼は常日頃服装に気を使うタイプではない。 その日もネクタイを緩め ワイシャツのボタンをはずして会場に行った。 何しろ彼は大汗かきなのだ。 デパートの社員も女流画家も、 Bさんを無視して 小奇麗な格好の人達にちゃらちゃらおべっかを使っていた。
頭にきたBさんは担当者を呼び、 画家に絵を説明するように迫った。 担当者は露骨にいやな顔をしたが、 女流画家は物凄く丁寧に対応をした。 僕も彼女が何故丁寧に対応したか分かる。 Bさんはラフな格好をしているが、 身に付けている物は当時日本人には知られていない、 世界の一流ブランド品ばかりだった。 金のかけ方が半端ではない。
その彼が突然、女流画家にこういった。 「会場の絵全部こうたる!」 横にいた担当者はびっくりしてこう言った。 「お客様、大丈夫ですか?」と、さらに火に油を注いだ。 「なにが!」と怖い顔をしてにらみつけると 「かなりなお代金になりますが・・・・」 と、小馬鹿にしたように続ける。 担当者の気持ちも僕には分かる。 初日に全作品に赤丸をつけ、 数日して「いらん」と言われれば、大ごとになる。
Bさんはカルチェのセカンドバックのファスナーをあけ、 ぎっしり入っている札束を引っ張りだした。 「これ手付けや」と言って1,000万を担当者に渡した。 「真空パックに入っているけど、八百屋で作ったお金とは違うよ」 と言いつつ、日銀の封そのままの新札を手渡した。 こんな風に、自分の気に入った美術品をBさんはパッと買う。
ある時彼の倉庫に行ってびっくりした。 きっちり整頓された倉庫の中に、物凄い量の美術工芸品があった。 著名な画家の作品から、衝動買いと思われる若手作家の物まで、 茶道具からコインやペルシャ絨毯のようなものまであった。 バブルの盛りをBさんは十分に楽しんでいた。 しかしその後バブルがしぼみ、彼の名も聞かなくなった。
Bさんは美術品の処分のことなど一言も言ってこない。 男らしいコレクターだ。 きっと彼はもう一度チャンスをつかむ人だろう。 骨董の買い方、売り方にその人が出る。
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