初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第19回
 
 
微笑みの国したたかタイ骨董屋との取引
 
 
 
 

初めて訪れたタイはとても印象がよく、

微笑みの国だというのは

本当だと思った。

言葉遣いは柔らかいし、

出会う人々は皆いつも微笑みながら、

両手を前にあわせサワディと

柔らかい感じで挨拶をしてくれた。

ところが1年、2年経つうちに

何か深〜いところに、かた〜いものが

あるような気がし始めた。

もっと言えば油断ができない、

心から信頼できない何かを

感じることがある。

値段交渉をしていても、

いつもニコニコ笑いながら

頭の中では全く別のことを

考えているのだ。

そして肝心のところへくると

ビシッと決められる。

「そのスコータイ仏良いね。幾ら?」

「ああこれね。ミスター小西が

欲しがっている」

と言う風に僕のライバルを入れてくる。

「じゃ、彼手付け打ってるの?」

「いいや、彼は金払いが悪いからね。

困っているんだよ。」

「じゃあ僕に譲ってくれても

良いじゃないか」

「でも話は一応聞いているもので」

と語尾を濁す。

この辺りで値段が出てくるのだが、

かなり高い。

どんどん攻めてゆくと

「ミスターノリキ、あなたは

チェックが厳しい。

 いつも良いものばかり選ぶから

こちらもやり切れんね。

 小西さんは偽物でも本物でも

わからないからね。

 アハ、アハ、アハ。買ってゆくよ。」

こんな感じで突き落とされたり、

持ち上げられたりして

相手に鼻の先を握られ振り回された

ことも一度や二度ではない。

それに取り置きを頼んでいても平気

で売ってしまうし、

人によって値段もずいぶん

違っているようだ。

特にタイ人女性との取引なると

ものすごく細かくてねちこい。

はじめタイが好きだと

言っている人たちも

しばらくするとあの粘着質の

商売のやり方に

反発を覚える人も少なくない。

とにかく歴史的に見ても、

タイ人は本当に

交渉力のある人たちなのだ。

この国は不安定な

政治状況が続く東南アジアにあって、

常に外交でバランスと保ち、

一度も植民地になったことがない

恐ろしい国なのだ。

でも美術品は素晴らしいものがあって

僕を魅了してやまない。