2005年7月12日クリスティーズのオークションで、 元染付の壺が陶磁としては史上最高で落札された。 15,688,000ポンド、日本円では3,137,600,000円である。 漏れ聞いたところによると、 この壺の出品者は日本人であるらしい。 1~2億ぐらいでと思っていたのだが、 物凄い価格になったため出品者も驚いていると言うことだった。
元染付についてはこのコラムでも何度かとり上げている。 東南アジアには比較的多く伝わっているもので、 僕もこれまで幾つかの元染付作品を取り扱った。 これほど一本調子に値段が上がっていった作品は他に例がない。
ある時チェンマイで元染付の壺を発見した。 タイの寺院などの基壇に埋められる舎利容器の外容器として、 元染付や安南の壺が用いられているのだ。 あるものは内外面に金箔が貼られたり、 口辺部に銅や銀の覆輪が施されたりしている。 僕が出会った元染付の壺も内外面に金箔が施されていた。 その金箔面には、 サンドペーパーか何かで擦り取られたように 全面に細かい傷が付いていた。 金箔のないところからは 元染付特有のやや青みがかった肌が見える。 染付部分はこれも力強い筆の運びで牡丹唐草文が描かれている。
値段を聞くと二百万ぐらいで、当時としても非常に安かった。 それで思わず飛びついてしまったのだが、 どうも金箔の小傷が気になって仕方がない。 よく見るとまるで機械で擦ったように、 ある方向に向かって規則正しく擦れが見える。 そこでさらにルーペでチェックした。 するとそれまでオリジナルだと思っていた壺に いろいろな疑問点が見えてきた。
まず貫入(釉薬部分のひび割れ)が長い。 通常元染付作品には貫入が少ないが、 この壺の口辺部から高台脇にまで長い貫入がたくさん走っている。 こんな作品は見たことがない。 それに文様の花弁の発色が単純すぎると、 どんどん問題点が湧き上がってきた。 結局その作品は買わなかったのだが 良いと思ったことがわずかな視点の違いで、 このように否定的に見える場合はよくある。
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