インドネシアのジャカルタに
ジャラン・チモール・ダラーム
という通りがある。
そこにこじんまりとした骨董屋があって
親父はコールマン髭の
やや長いのを生やしている。
笑顔がとてもいいし、
行く度にお前の目はダイヤモンドだとか
翡翠だとか言って褒めてくれるので
僕もいつしか彼をいい奴だと
思うようになっていた。
しかし、彼の店にある品物は99%偽物だし
どこか胡散臭いものばかりだった。
どうしてこんなにいい人なのに
目がないのだろうか
と常々思っていた。
しかし机の引き出しから
「ノリキ、あんたのためにとって
置いたんだ」
と言って小さな小壷や茶碗を
取り出してくるものは、
ぎりぎり水準くらいで2回に1度は
義理で買うこともあった。
あるとき
「あんたこんなに沢山並べているが
皆コピーばかりでよく商売が成り立つね」
と彼の痛いところを付いてしまった。
しかし親父は悪びれることなく、
「そうなんだ。しかし、ノリキは
よくこの写し物が分かったね」
とまた褒めてくれる。
「私だってこんなものは扱いたくない。
資金さえあればかなりなものを
集めることができるんだが
何しろ資金がないからね」
と言って僕の財布の中身を探るような
目つきで
ウエストポーチをじろっと見た。
「あのネ、骨董は目と足で
稼ぐというよ」と言うと
「そうだ。アンタはいいことを言う。
確かにインドネシアでも同じような
ことわざがあったがね」と
姿勢を変えてまた
褒め殺し作戦に出てきた。
髭と笑顔がいいので、ついつい
こちらも釣り込まれてしまって
彼の話を聞いてしまった。
「ノリキ、資金さえあれば。
今ジャワの海でいいものが
揚がっているんだが
あれを買わんか」
と言い出した。
続く・・・・・
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