初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第50回

商品学(ベトナム編)

6.ベトナム陶磁II―僕が見つけた宝の山
 
 


バンコクのシーロムロードに

アドンさんという骨董屋が

古くから店を出していた。

バンコクに行くと僕はいつも

その店に顔を出していた。

1991年4月頃だったと思うが、

店に入って驚いた。

ガラスケースの中に長年捜し

求めていた安南絞手茶碗が

5、6個入っていたのだ。

かつて同手の茶碗をタイビルマ国境で

一碗90万円で買ったことがあった。

「アドンさん、これどうしたの?」

「ベトナムから来たんだ。」と

彼もタイ陶磁と違う

慣れない安南陶磁を

やや戸惑ったように僕に見せた。

しかしながら、やや上ずった僕の声を

彼は聞き逃さなかったようだ。

「あなた買いますか?」と

上目使いに僕の顔を覗くのだ。

「欲しいことは欲しいが、幾らくらい?」

と聞くと1碗30万くらいと

結構きつい値段を吹っかけてきた。

それをなんだかんだと交渉して

20万円くらいまで下げさせた。

全部買い取ったが不安が残った。

もしこれから同じような茶碗が

一挙に市場に出回りだし

値下がりすると大変マズイ。

そこでアドンさんに

「出てくる茶碗全部買うから

キープしておいて」

と歯止めをかけた。

骨董は5個や10個であれば

どんな値段を出しても売れるし

大儲けできるが、

売った後どっと品物が出回ると

買ってくれた人に迷惑をかけるし、

信用も落としてしまうので

用心しないといけない。

だからこの手の茶碗はそんなに

数もないと思ったので

彼に他に売らない様に言ったのだ。

アドンさんは嬉しそうに

引き受けてくれた。

1ヶ月ほどして再度訪ねると

20個ほどの取置きがあった。

あまりの数にぎょっとしたが

そのなかのよいものを5点選んで

前回と同じ値段で買い付けた。

割れた物やカセタ(釉薬が酸化して

ボロボロになったもの)ものも

買えといわれたがそれは蹴飛ばした。

                          (次編に続く)

 

15、16世紀 安南染付香合