島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第59回
商品学(タイ編)
5. タイの織物−ジャングルに消えたジム・トンプソン

バンコクには
The House on the Kalong という
タイのシルク王ジム・トンプソンが造った
アジアのアートコレクションを収蔵した美術館がある。

彼はタイのテキスタイルに魅せられ、
古代の織物を復元し、それを発展させその地位を築いた。
様々な憶測やうわさがささやかれているが
テキスタイルで成功した彼が、
ラオス方面のジャングルに消え、
いまだにその行方は分かっていない。
そんなインドシナ半島のテキスタイルに
興味を持った男達が数多くいる。

タイにはインドシナ半島の新古の織物が集まってくる。
ラオス、ミャンマー、カンボジア、ベトナムなど。
しかしそれらの殆どは近年の作品である。
しかしごく少量18,19世紀頃の布が
骨董市場に出回ることもある。
僕も10年ほど前、
幅1メートル、長さ2.5メートルほどの
バティックを買ったことがある。
インドネシア・バティックに似たもので
小さな花柄の両端に鋸歯文様のある印象深い絵柄だった。

何気なく店頭に積まれた布は10枚ほどあった。
1枚ずつたたまれた布は
糊が良くきいてパリッとしていた。
それはインドに起源を持つ更紗で人気のある布だ。
我々日本人はこれをシャム更紗と呼んでいる。

東南アジアの布のルーツは殆どがインドである。
文様、織り方、染料、材質など
恐らく古い時代に織染技術が伝わり、
それがインドシナ半島一帯に発展していったと思われる。

昨今50〜100年ほど前の小物のバティックや、
イカット(絣)の作品でも1,000ドルほどする。
日本では茶の湯の道具を包む仕覆や
掛け軸の上下に貼り付ける布地などに使用されている。
裂地のよいものはとても高価で人気がある。
もう少し時代のある200年も経った良いものなどは
1万ドルや2万ドルの値がつく場合もある。

良い裂地は文様が緻密でデザインがしっかりとしている。
時代が古いと物を作るのに手間隙かけ、
細かいところまで気配りがなされている。
古い時代の染料は草木を用いているので、
洗い古されてもが色ボケがなく鮮やで、
時代を経ても色合いが増してくるほどである。

昨今の科学染料が
使い込んでいくとぼやけてしまい、
魅力がなくなってくるのとは明らかに違う。
このような織物は通常肩掛け。
経典布、筒スカート、敷物などの用途に
用いられていたものだ。
何に用いられたかと言うことでも
ある程度古い布かどうかも分かる。
また、材料は絹、綿、朝、獣毛などがある。
東南アジアの布を語る時、
国によって文様のパターンや織り方が少しずつ違う。
その辺りを押さえると織物は比較的分かりやすい。

東南アジアの布は陶磁や金属器と違って
以前はあまり高く評価されていなかったが、
ここ2,30年でものすごい値上がりをしている。
僕は今まであまり
このあたりの布を高く評価していなかったが、
このごろコレもやらんとあかんな
と考えているところだ。
それに結構コレクターも増えている。