初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第61回

商品学(インドネシア編)

1. 現代人のストレスを癒す

原始美術がある国!
 
 


インドネシアはインド洋と太平洋に

挟まれた海のシルクロードの

重要な拠点だ。

そして1700を超える大小の島々から

成り立っている。

その工芸はインド、アラビア、中国、

オランダなどの影響を

色濃くにじませている。

この国はオランダ植民地以前、

統一された王国としての歴史がない。

スマトラ、セレベス、ジャワ、バリ、

チモールのように

地方の小王国が割拠していたのだ。

そして今尚それぞれの地方の特徴が

失われていない。

それだけにインドネシアの人々は

多様な美の価値観を

自然と有しているようだ。

それは骨董を楽しむのにも

顕著に現れている。

テキスタイル、仏教、ヒンドゥー美術、

プリミティブアート、陶磁器、漆など

幅広いジャンルがビジネスになっている。

アジアでもっとも多様な文化を持った

人たちといっても良いかもしれない。

彼らは古いものから比較的新しいものまで

うまく用いてインテリアとして生かしている。

我々ならとてもこんなものと思うような、

ついこの間まで使われていた

椰子の実のコプラをはずす道具、

イリヤンジャヤの原住民のオール、

祭りで使う面などが

質素な家の中にセンスよく置かれていて

びっくりすることもある。

そんなアイテムを海外の

骨董ディーラーが

インドネシアの小さな島々まで

訪れて買い付けを行っている。

この国の骨董は先進国の人たちを

ひきつける魅力が

十分にあるのだろう。

振り返って考えてみると我国の骨董の中に

そんなアイテムは数多くはない。

首都ジャカルタは人口が1000万を

超える大都会だ。

高層のビルが立ち並び、

道路には車が溢れんばかりに走っている。

東京やソウルをしのぐ都市の喧騒もある。

他方イリヤンジャヤやロンボック島に

行けば今でも裸族が弓を持って

野生の猪を追いかけている。

原始と現代が同居している

アンバランスな国だ。

今尚、原始美術をごく普通に

生み出すことの出来る基盤がある。

僕の泊まった高層ビルのホテルの壁に

イリヤンジャヤで織られた

テキスタイルの額がかかっていた。

部屋に収まった原始美術は見事に

現代と調和して

訪れる人たちの心を癒していた。

近代化を進めれば進めるほど、

人は自然回帰するので

原始時代の人間らしい工芸作品に

救われる何かを感じるのだろう。

ごく自然に原始アートを作ったり、

見つけたり出来る国は

そうざらにはない。

世界中が癒しを求める時代が

やってきている。

インドネシアは魅力ある骨董仕入れ地だ。