島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第60回
商品学(タイ編)
6. 7世紀秘宝太陽神スーリャは夏目雅子似だった!


インドから仏教とヒンドゥー教がタイに伝わったのは
6世紀頃のことだったと信じられている。
しかし4,5世紀という節もある。
インドから熱い思いを抱いた布教僧達が
インドシナ半島に来て人々を教化したのは興味あるところだ。
その痕跡がタイ中部のナコン・パトムやシ・テップにある。
それは6,7世紀頃の素晴らしい石像彫刻の数々である。

この項ではタイヒンドゥー美術の秘宝といわれている
シ・テップの作品を紹介しよう。
写真の作品は20年ほど前に入手したものだが、
まだ僕も駆け出しの骨董屋で
この石像を求めるのは非常にきつかった。
買い付けた業者はバンコクでも
『めきめき』その頭角を現し始めた羽振りの良いヤツだった。
彼の話によれば古いコレクターの持ち物で
100年か150年ほど前に発見され、
名家に伝世していたものらしいとの事だった。
運転資金のことや手持ちの金勘定もせず、
エイヤと買ってしまった。
骨董品の買い付けは運・金・度胸と眼力が勝負だ。
僕はこの像の不思議なオーラのようなものに
とりつかれてしまった。

両手に持つ蓮の蕾、太陽をあらわす頭部の丸い光背、
ペルシャ貴族がはいている短いスカートなど、
細かくチェックをしたが文句なしの逸品だった。
価格は上記したように他の骨董と比べても非常に高価で、
値引も殆どなく相手は強気一方だった。
こんな時は僕も思い切り粘るのだが、
スーリャの顔を見ているうち
価格などどうでもよいと思ってしまった。
惚れてしまったのだ。
こんなことはめったにないことで
今でもその時の交渉は我ながら反省すること仕切りだ。
しかし、怪我の功名というか
この像と全く同じものでもっと状態の良くないものが
バンコク国立博物館の中に収蔵されていた。

スーリャが手元に来てよくよく見ると
あの夏目雅子さんの面影が漂っているのだ。
夏目雅子さんは美人で気立ての良い美しい女優だった。
僕の青年時代の憧れの人でもあった。
ひょっとして彼女の遠い、遠い祖先は
タイ中部、シ・テップにいたのかも知れない。
私の店でも仏像や石像を買われる人は
よくよく観察すると自分の顔に似ているものや
恋人の顔に似通っているものを求められる方が多い。
僕もそんなケースにはまり込んでしまったのだろう。

その時気づかなかったが
この像を調べてみると緑系の砂岩であり、
ナコン・パトムで発見された法輪や
スコータイのラーム・カームヘン国立博物館にある像の石質と
全く同じものであった。
恐らく僕がこれからどんなに運のいい男でも
これ以上の素晴らしい像とはめぐり合うことがないだろう。
この像を見る人は
あまりの神秘的なスーリャ神の魅力に皆はっと息を呑む。

 
 
7世紀 太陽神(スーリャ)