そんな時先程入ってきた蔵の扉の横に 茶色く変色した藁縄で縛った皿が目に飛び込んできた。 銃はもう飽き飽きするほど見たので、 陶器でも見せてくれないかな~と思っていたところだった。
「あれなんですか?」 「昔からあるもので、伊万里かなんぞの皿ですよ」 と気のない返事が返ってきた。 「ちょっと見せてもらっていいですか」 と、Yさんの返事も待たず、入り口に行きしゃがみこんだ。 重ねられた皿の藁の部分を片寄せて中を覗き込んだ。
「なんと!」 生がけ独特の柔らかい釉肌がのぞいている。 初期伊万里の皿だった。 絵付はどんなだろう、 と力を入れて藁と縄を大きく掻き分けると、 「ブスッ」と低い音がして縄が切れてしまった。 もう殆ど腐っている状態だったらしく 当主もこちらを見ているが、別に文句を言う風でもない。 しかし、僕はほっとした。 縄を掴んで持ち上げていたら 今頃2、3枚割っていいたことだろう。 Yさんは詰まらんことをやっているな と言う顔をしてこちらを見ている。
「すみません。縄切れてしまったようです」 「ええよ。ええよ」と鷹揚に言ってくれた。 おかげで皿の文様もはっきりと見えるようになった。 「ひえ~」 中央に吹き墨の兎。 それに石榴と月白兎と書いた短冊の絵が施されている。 直径は20cmくらいの皿で、骨董愛好家が言う7寸皿だ。 数えてみると10枚あり、 それぞれ美しい傷のないものであった。 少なく見積もって1枚150万くらいはするだろうと思った。 (当時大卒の給料が1ヶ月確か10万くらいだったように思う) 鉄砲のことは僕の頭の中からすっかり消えてしまった。
「これゆずってくれませんか?」とYさんを見た。 「ええよ」と一言簡単に言われた。 そしてこんなものどうするんだと言う顔をした。 ゴクッとつばを飲み込んで、 一番大切なことをさらっと聞いた。 「いくらで譲ってくれます?」 「幾らでもいいよ。そんなの」 と言って中の一枚を下駄で軽くこんこんと蹴った。 僕は思わず皿を抱え込んだ。
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