「あんた、値段をつけて。専門じゃないから」 とYさん。 「30万でどうですか?」と僕はよ~く考えて言った。 安すぎて断られては2度とチャンスはない。 高く買っても馬鹿らしい。 彼は僕の顔をあきれたように見ていた。
しまった。 1枚50万くらいと言ったほうがよかったか、 と悔やんだがもう言い直せない。 「そんなボロ皿見当違いをしたらあかんよ。 30万も出せば100枚ほど買えるのと違う?」 と言い、見立ては大丈夫か、と言うような顔をしている。 しかも彼は1枚ではなくて 10枚で30万と受け取っているのようだ。 そう言われると心配になってきて、 もう一度しっかりと見直したのだが、 初期伊万里で最も人気のある吹き墨の絵付だった。 それに傷けもない。
「いいです。1枚30万円でもらいます」とはっきり言った。 「えっ!1枚30万か」 一枚30万円と聞いて、彼はちょっと考え込んでいる。 そして、 「一番いいのと一番悪いのとを外して、8枚持って行っていいよ」 と少し慌て気味に言った。 気が変わらないうちにと 8枚の皿は早々に新聞紙をもらって包んだ。 それに手持ちの5万円のお金を 彼に手付けとして無理やり受け取ってもらおうとした。 さすが旧家の当主、 お金を渡すと「いやいや」と言ってなかなか受け取らない。 それをなんだかんだといって頑張った。 受け取ったお金をYさんは胸のポケットに入れつつ言った。
「島津君、残りのお金は僕に直接渡してくれる?」 「はぁ?」 「女房がうるさいからね」 こんな大きな家に住んでいても難しいことがあるみたい。 「いいですよ。じゃあ明日直接持ってきますから」 「すまんな」 彼は確か養子と聞いた。
|