彼は金持ちみたいだからプライスはパス、 次に文化財の持ち出しや、ややこしい手続きなんかも 誰かがやるからパス、 偽物かどうかと言うことも 自分が気に入っているから、大して気にもしていないだろう。 そんな風に消去していけば 彼がどうだろうといったのは 単に見知らぬ土地で出会った同国人の僕に 「いいですね」と相槌だけを求めたのかもしれない。 ちょっと意地悪したくなって 「値段ですか、クオリティですか?」ともう一度聞いた。
「まあ、そんなところだね」 と彼はわけのわからんことを言った。 「この5点のうち右から3点はよいものです。 2点は割れたものを直しています」 と僕は正確なアドバイスをした。 「この店ははじめ倍から3倍に吹っかけますから 言い値の30%くらいで交渉するといいですよ」 と付け加えた。 「ホホウ、3倍も言うのか」 と、うれしそうに笑った。 彼の顔は蒋介石に似ていた。
「君。飯でも一緒にどうかね」と誘われたが 何しろ僕は、1分400円で動いている。 彼の買い物につき合わされ、 もう1時間ばかりつぶれてしまっている。 昼飯など食っているとロスはもっと多くなる。 それで誘いを断った。 秘書はびっくりしたみたいだったけれど 言い出した本人はけろっとして 「そうかね」といって解放してくれた。
中2日置いて女店主の店に戻った。 彼女が座っている机の上のガラスの下に 1枚の名刺が挟んであった。 某有名健康食品会社会長のものだった。 この人は良くチラシ広告に自分の顔写真を載せる。
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