ずいぶん前、大阪のHデパートで古陶磁の展示即売会をやった。 初日の夕方、小柄でエネルギッシュな 60歳くらいの男性が現れた。
「これやっているのは君か?」 と凄みのある顔を突き出して言った。 ちょび髭、小太り、金ぴかの服、 怖い人かなと思ったが、どこか人のよさそうな面もあった。 「社長これいかがですか?」 と青磁の大鉢を薦めた。 ちらりと横目で見て「フン!小さいな」と一言。 「社長、この時代のものでしたら、 かなり大きい方で上手の物ですよ」 と、もう一歩踏み込んだ。 「ゴジャゴジャ説明せんでええ」 と鋭い目でにらまれた。 良く見ると顔の右側に刀傷もある。 やっぱり怖い人かもと思った。
「社長、お気に入った物があればおっしゃってください」 と、一歩下がって言った。 すると作品の壺や鉢を手に取るでもなく後ろを向いたまま、 「これ何ぼや?」 と聞き取れないような小声でボソッと言った。 「どれですか?」 と彼の背中に声をかけた。 「全部や」 「全部って展示しているの全部ですか?」 時々こんな冷やかしの客もいる。 しかしこの人は傍若無人と言うのか人を食っていた。
どうせ買わないと思ったが一応出展品の合計金額を言った。 「○○○万円です」すると男性客はやっと振り向いた。 「あんた、寝とんの?」と挑発するように言う。 デパートの催事場で怒る訳にもいかず、 この客には少々てこずった。 僕が任されている値引率15%でもう一度数字を出してみた。 「これくらいにさせてもらいますが・・・」 と言って値引きした数字を電卓で見せた。
・・・次回に続く
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