「アンタ、どこからきたんや?駆け出しやな」 と身を反らせながらさらに厳しい挑発を仕掛けてきた。 そこへデパートの担当者が転がるようにやってきた。 「社長、社長、社長!毎度お世話になってます」 と、腰をかがめて言った。 客はそんな彼には目もくれない。 「変わった値段出しよったで」 と、巻き舌で担当者を叱り付ける様に言った。 「新しい取引先なんで社長の事知りませんから、 申し訳ありません」 とペコペコして僕のほうをグッとにらみつけた。 「ちょぼっとしか引きよらへんのよ」 とさらに担当者をプッシュした。 彼は僕のほうを向いてもう一度怖い顔をした。 「社長にはもっと頑張って値をつけてくれなアカンやないか」 と尻馬に乗って言う。
慣れない背広着てデパートの催事場に立っていると 僕も調子が狂ってくる。 しかし何もかもグッと飲み込んだ。 「分かりました。社長、値段つけてください。 全部うちのものですからあわせます。」 と放り投げた。 担当者は、なにすんねんという目で僕を見た。 「ちゃんとそろばんはあわせます」と小声で断った。 「兄ちゃん、ええコンジョしてとるね。ほんまにええんか?」 「いいですよ」と言うと、彼は指を一本立てた。 どこまでも理解しにくい人だ。 催しの出品金額の合計は売値で2500万円ほどだ。 デパートへの仕切りでざっと1700万円くらいだろう。 僕が泣いてデパートに無理を言ってしのごうと考えたが どうも面白くない。 「社長、1本って1万円ですか」と、とぼける作戦を取った。 「ワッハ、ハ、若いのにおもろいやっちゃ。皆こうちゃる」 と言って手を広げ、 担当者に後からもってこいと言いながら帰ってしまった。
「あの人、本当に買ってくれるんですか?」と訊いた。 「さぁ~」と彼も不安そうに顔を曇らせた。 「あの社長ね、ビル75棟、ゴルフ場3つ、結婚式場と スーパーマーケットのチェーン店を経営しているんだがね」 と付け加えた。 「じゃあ、とりあえず完売ということにしましょう。 いつ届ければいいか訊いてください」と言うと 「その辺の交渉はあんたがやってくれ」と言われた。 トラブルを避け、 難しいことは出入り業者にやらせるケースは結構多い。 翌日電話すると「明日来い」と社長に言われた。
・・・この項続く
|