島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第127回

<とぴっく10>
エロっぽいルノアールと核心を突いた帝王学

 
李朝瑠璃雲鶴文長頚瓶


山の上の物凄い大きな家に行くと、
一昨日の社長が好々爺という格好で現れた。
「おお、良く来たな。まあ、中に入れ」
と言って立派な数奇屋作りの家に案内してくれた。
「社長、早速ですが先日の品、
 いつお運びすればよいでしょうか?」
と早々に切り出した。
すると、「あんなもんいらんよ」と、ケロッと言うのだ。
むちゃくちゃ腹が立ったが気を取り直した。
「そうですか。じゃあ失礼します」
と、間髪を入れず僕は立ち上がった。

「気の短い奴やな。こうたる。100万円分ええのもってこい」
と言ってくれた。
僕もこれでホッとした。
以後この面白い社長との付き合いが始まった。

彼は巨大な観音像を建造したり、
温泉地にびっくりするような美術館を建てたりした。
一度来いと言うから見に行くと、
美術館の中は様々な格好をした裸婦のオンパレードだった。
「社長、こんなの掛けていて大丈夫ですか?つかまりませんか?」
「あほ、芸術やで。温泉客相手の美術館にはこれが一番ええ」
自分のアイデアに自信を持っている。
「作家、有名なんですか?」
中にルノアールの有名な作品があったが
オリジナルとは少し違ってエロっぽい。
「フランスの画家で何たら言うたな~」と、しれっとしていた。

「君なー。この中に俺の描いたのがある。
 売ってる作品ちょっと借りてくるねん。
 それを1週間ほどで写してしまうんよ。
 この中にあるから当ててみ。」
と照れ笑いもせずに言うのだった。
僕はがっくりと首が折れた。

ある時、「君なあ、金儲けの仕方教えたろか」とも言われた。
「旅行に出ると誰でも金を使いたいんや。
 うまいものを食う、面白いものを見る。買い物もしたい。
 要は気持ち良い事に金を使いたいんや。
 『さあ、早よ金取って!』と財布を開けている状態なんやで」
ちょっと問題がある言い方だが、
社長が細かく人の心理を掴んでいるのに驚いた。

こんなことも言っていた。
「君な~。跡取りに勉強させているんや。
 これだけはやれ、と言い聞かせていることがあるんや。
 なんやと思う?」
「経営学でも勉強させているんですか?
 社長くらいの会社の規模になると、
 近代的なマネッジメントでやらないかんでしょうからね」
とお追従を言うと、
腐ったジャガイモを見つめるような顔で僕を見た。

「あほ!お前もたいしたことないな。何もするなと言うとるねん。
 ジーッとしてたら家賃が入るがな。
 儲けようと思って会社を大きくしたら、いつかどっかで倒産や。
 息子には働くな、何もするなと教えとるんやで。
 そやけどこれは難しいこっちゃ」
僕は、本当に感心した。核心を突いている。
バブルの真っ最中でどこもここも沸騰している時だった。

しかし、この社長の会社もその後不幸なことになってしまった。
話の割には僕にとってあまり大きな商売も出来なかったが、
印象的な人だった。
どうか復活して又あの景気のいい話を聞きたいと願っている。