山の上の物凄い大きな家に行くと、 一昨日の社長が好々爺という格好で現れた。 「おお、良く来たな。まあ、中に入れ」 と言って立派な数奇屋作りの家に案内してくれた。 「社長、早速ですが先日の品、 いつお運びすればよいでしょうか?」 と早々に切り出した。 すると、「あんなもんいらんよ」と、ケロッと言うのだ。 むちゃくちゃ腹が立ったが気を取り直した。 「そうですか。じゃあ失礼します」 と、間髪を入れず僕は立ち上がった。
「気の短い奴やな。こうたる。100万円分ええのもってこい」 と言ってくれた。 僕もこれでホッとした。 以後この面白い社長との付き合いが始まった。
彼は巨大な観音像を建造したり、 温泉地にびっくりするような美術館を建てたりした。 一度来いと言うから見に行くと、 美術館の中は様々な格好をした裸婦のオンパレードだった。 「社長、こんなの掛けていて大丈夫ですか?つかまりませんか?」 「あほ、芸術やで。温泉客相手の美術館にはこれが一番ええ」 自分のアイデアに自信を持っている。 「作家、有名なんですか?」 中にルノアールの有名な作品があったが オリジナルとは少し違ってエロっぽい。 「フランスの画家で何たら言うたな~」と、しれっとしていた。
「君なー。この中に俺の描いたのがある。 売ってる作品ちょっと借りてくるねん。 それを1週間ほどで写してしまうんよ。 この中にあるから当ててみ。」 と照れ笑いもせずに言うのだった。 僕はがっくりと首が折れた。
ある時、「君なあ、金儲けの仕方教えたろか」とも言われた。 「旅行に出ると誰でも金を使いたいんや。 うまいものを食う、面白いものを見る。買い物もしたい。 要は気持ち良い事に金を使いたいんや。 『さあ、早よ金取って!』と財布を開けている状態なんやで」 ちょっと問題がある言い方だが、 社長が細かく人の心理を掴んでいるのに驚いた。
こんなことも言っていた。 「君な~。跡取りに勉強させているんや。 これだけはやれ、と言い聞かせていることがあるんや。 なんやと思う?」 「経営学でも勉強させているんですか? 社長くらいの会社の規模になると、 近代的なマネッジメントでやらないかんでしょうからね」 とお追従を言うと、 腐ったジャガイモを見つめるような顔で僕を見た。
「あほ!お前もたいしたことないな。何もするなと言うとるねん。 ジーッとしてたら家賃が入るがな。 儲けようと思って会社を大きくしたら、いつかどっかで倒産や。 息子には働くな、何もするなと教えとるんやで。 そやけどこれは難しいこっちゃ」 僕は、本当に感心した。核心を突いている。 バブルの真っ最中でどこもここも沸騰している時だった。
しかし、この社長の会社もその後不幸なことになってしまった。 話の割には僕にとってあまり大きな商売も出来なかったが、 印象的な人だった。 どうか復活して又あの景気のいい話を聞きたいと願っている。
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