数年前、友人から 「知人の骨董品を見てやって欲しい」 と電話が入った。 中国旅行に行った知人が、○○省博物館の収蔵品を買った。 が、奥さんが偽物かもしれないと心配しているので、 鑑定して欲しいということだった。 品物は大手旅行会社が、日本まで運送を引き受け、 決済も日本でよいとのことだった。 一緒に旅行に行った奥さんが、 専門家に見てもらってから支払いをするべきだ と強硬に言ったらしい。 こんな鑑定の依頼はたびたびあって、 引き受けていたら大変なので通常はやっていない。 友人の依頼でもあり、この時は引き受けた。
2、3日してそのご主人と奥さんが僕の店にやってきた。 大きな御菓子箱をおそるおそる出しながら 「これつまらないものですが・・・」 といって机の上に置いた。 続けて 「まだ、作品は港にあるのですが、 これがその美術館の保証書です。」 と、金押しの仰々しい文字が書かれたホルダーを渡された。 中にごそっと保証書が挟まっていた。
ホルダーの表紙下段には誰でも知っている 中国南部の○○省博物館の名前が打ち込まれていた。 日本で言えばさしずめ、 京都国立博物館が発行したような装丁になっている。 ホルダーをあけてみると 10枚の金縁の台紙に写真を貼った保証書が入っていた。 その写真には5、60年位前の安物の陶磁器や 数年前に作られた軟玉の香炉等、 その辺に転がっていそうな作品が写っていた。 保証書を見ると下隅に小さく ○○省博物館文物商店蔵と記されてある。
いかにも人の良さそうなご主人は あるアパレル会社を経営しているとのことだった。 仕事の関係でたびたび中国へ行く機会があったが このたびは数人で語らい 奥さん連れで大手旅行のツアーに参加したという。 ビジネスではないのでつい財布の紐が緩み、 200万でこの保証書に載った作品を買うと言ったらしい。
|