「だけど砂高台は13世紀でしょ、こんな発色無いはずだけど」 と、僕の突込に対してはすかさず別の攻め口を見つけてきた。 「ここの部分にカセがあるでしょ、アナタわからないか。」 といって、僕が迷っていたカセ部分を指差した。 そのうちハッと気が付いた。 古い朝鮮の壺や茶碗などには必ずあるはずの歪が無い。 どんなに素晴らしい美術館収蔵の作品でも、 韓国陶磁は必ず歪んでいる。 梅瓶なども少し傾いたり、 口がセンターからややずれたりしている。 それがこの梅瓶にはないのだ。
物を見慣れていると、 理屈だけではなく目がおぼえてしまうことがある。 本当によく出来た偽物でも目のほうで異常を感じる。
その後ソウルで金さんに会った。 彼はこの頃金回りがいいみたいでデカイベンツに乗っている。 服装もスカッとしていて僕よりよっぽど金持ちだ。 その彼がこんなことを言った。 「韓国で作った偽物を北へ送ると、 向こうで日本や韓国のディーラーがせっせと買うのよ」 「何を売ったの?」 と聞くとその問いには答えず、 「貨車一杯分売りましたよ」 と言った。 「中朝国境の丹東(タンドン)まで金を運んで骨董を探すよりは、 偽物を売るほうが確実に儲かる。 何しろ北は偽物に対する免疫が全くありませんから、 それに北で買ったものは偽物であろうとなかろうと ディーラーは返品が効かないのでいい商売ですよ」 と恐ろしいことを教えてくれた。 彼のファミリーは丹東で金を奪われ、 頭を石で殴られ大怪我をしている。
「どこからコピーを北へ入れるの?」 「丹東まではこちらで運びますが・・・ そこから鴨緑江を渡って向こう岸まで運ぶのは 現地の朝鮮族の人がやるので割りと簡単です」 「丹東には向こうから来るものを、 蟻が群がるようにディーラーが買い付けに来ていますからね。 このあたりの商売は皆一発勝負で 全く責任が無いからいいですよ。 ここから北京経由で日本にも良い物が運ばれていますよ」 といって金さんはアハハと笑った。
僕も骨董屋の端くれ、 彼の作ったものに騙される訳にはいかない。 本歌(オリジナル)に対して偽物が作られるのはしょうがないが、 北朝鮮や国境での商売は危ない話も結構あるようだ。 北朝鮮で偽物があるはずがないという思い込みを逆手に取った 目端の利く金さんの発想だ。
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