初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第67回

商品学(インドネシア編)

7. 海を渡った日本の陶器

一攫千金、掘り出し物アルヨ(II)


その埃を被った壷は


桃山時代の絵唐津の逸品だった!

日本へ持って帰って蓋や箱を

仕立てれば黙っていても茶人は

「島津さん、売ってください」

という代物だ。

「Nさん、これどうしたの?」

棚から引っ張ったのは良く

分かっていたが

思わず聞いてしまった。

日本で水指として伝世していれば

大変な値段の付くものだった。

まさかこんなところに桃山の

唐津があるなんて、

長い間インドネシア骨董探しの旅を

やっている僕も全く気づかなかった。

「Nさん、それ譲ってくれませんか?」

彼は僕の心の中を見透かすような、

団十郎の舞台ではっと睨むような

目をして、

「ダメだね。気に入ったもんだから。

 あんたも探すとイイよ。ヒヒヒ・・」と

にべもない。

仕方がないので『ゲロ』ってしまった。

「それ桃山の唐津ですよ。

大変な掘り出し物ですよ」

「ホーッ!」といって幾分緊張気味に

壷を抱え込んだ。

「2,3百万はするでしょう」というと

華奢な手でさらに壷を深く

抱え込んでしまった。

Nさんはその後店の親父との

交渉を僕に丸投げした。

結局、500円ほどで買ったのだが

僕はとても複雑な気持ちになった。

安ければ安いほどイライラするのだ。

Nさんは上機嫌で

新聞紙で包んだ壷をぶらぶらさせながら

ホテルに帰った。

そして風呂で丁寧に洗ったのだろう、

夕食の時にレストランに持ってきて

「どうだ、立派な唐津やろ。

 500円とは安い買い物だな。

 ファーッ、ファーッ、ファーッ」

といって僕に見せびらかしながら、

上機嫌でビールをぐっとあおった。

テーブルの上の壷は生き返ったように

艶々と輝き出した。

50万円まで出すといったが、

どんなに頼んでもNさんは

譲ってくれなかった。

中国や東南アジア陶磁は勿論、

柿右衛門、古伊万里、唐津のような

日本陶磁、

オランダのデルフト、ドイツのマイセン、

ペルシャ陶磁までインドネシアにはある。

それに信じられないことだが

高麗青磁も出土している。

名所旧跡をめぐる旅も良いけれど、

骨董好きだったら掘り出し物を探す

旅など最高に面白いところだ。

「島津さん連れてって!」という声は

非常に多い。

しかしNさんのこともあるので

以後耳を貸さないようにしている。


 
 
平戸焼染付鉢(江戸)