ミャンマー中部にインレー湖という大きな湖がある。 周囲を山が囲み、盆地が水浸しのような格好になった 水深の浅い広大な湖だ。 ここの特産は浮き畑で採れるトマトやピーマン、キュウリである。
湖底の藻を三叉の棒のようなものでねじ切って引き上げる。 それを筏のような具合に 1.5メートル×2.0メートルぐらいのマット状にして、 その上に土を乗せて浮き畑を作るのである。 日光は強く水は幾らでもあるから、 トマトやキュウリはすくすくと育ち、 非常に美味しいものができる。 ヤンゴンで消費されるトマトの7割がここで採れる と案内人が教えてくれた。 この浮き畑で何か美味しい高級野菜でも作れば 人件費は安いし、良いビジネスが出来るかもしれない。 汚水も流れ込んでいないし、水質もいい。 それにフナみたいな魚が結構たくさんいるので ここで鮒寿司でも作れば大儲けできるかも。
さてこの広大な湖のあちこちに 蓮の花が極楽浄土のように咲きまくっている。 この蓮の葉の茎の部分をポキッと折って引っ張ると 蜘蛛の糸くらいな極細の繊維がスーッと出てくる。 今時の日本人は蓮の茎など触ったことも無いと思うけれど、 お盆などで機会があれば、 一度試してみると、この話の真実味が増すに違いない。
一本の茎からはごく少量の繊維状のものが かすかに出てくる程度だから、7〜8本の茎を束ねる。 10センチくらいのところへナイフで切れ込みをいれ、 ボキッと折って引張ると、 15センチほどの蓮の繊維が下の板の上に残る。 何度かこれを繰り返し、板の上に溜まった繊維をよじると 1本の糸が15センチほど出来る。 それを気の遠くなるほどの時間と膨大な蓮の茎を用いて 布に織り上げるのだ。
幅50センチ、長さ1メートルの布を仕上げるのに 5000人工(にんく)かかると聞いた。 もし、日本でこの蓮布を織れば、 仮に1日5000円の手間賃を払うとして、 1メートルの布が2500万円くらいのものになってしまう。 僕はそんな布を7メートルも買った。 日本に持ち帰ったが、 何に使えばよいのか7〜8年も思いあぐねている。
奈良当麻寺の中将姫の描いた曼荼羅は 布が蓮の繊維で織ってあるといわれているが どうやら真実は違うようだ。 インドかミャンマーで織られたと思われる蓮の布があることを、 奈良時代の人々は知っていたらしい。 それは非常に貴重なものであったに違いない。 蓮布は正式には「ぐ布」と呼ばれている。
|