島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。
第92回
商品学(チベット・ネパール編)
皇帝のパオ ヒッピーが伝えた骨董文化
 
清朝五爪龍文様パオ


唐時代、チベットの勢力は中国と肩を並べるほどに強力だった。
その為唐の皇帝は子女を降嫁させるほど気を使った。
元を除いて明、清朝もチベットと友好関係を築く為
膨大な贈り物をしたようだ。

12世紀ごろからチベットではラマ教が広まり、
ラサや地方に大寺院が建立されるようになった。
贈り物は寺院に保存され
近年まで膨大な量がチベット各地にあった。
そんな皇帝の贈り物が
チベットの混乱でネパールのカトマンズに持ち出された。

それらの品々の中に
絢爛豪華に仕立てられた絹織物「パオ」がある。
五爪の龍や鳳凰が美しく刺繍されたパオが
当時、カトマンズでは一枚5、6万円で買えた。
僕は始め焼き物とブロンズばかり探していたので、
積み上げてあったパオを蹴飛ばして通っていた。
時々ヒッピーのにいちゃんが買い取って
本国へ持って帰っているのは知っていたが、
「あんなものどうするのだろう。
 アメリカではいけるんだろうか。
 派手過ぎて我がワビサビ文化の好みじゃないな」
と思っていた。

彼らは当時流行の最先端だった。
彼らからアメリカのジーンズが流行ったように、
カトマンズで手に入れた皇帝のパオも
本国で注目されたようだ。
きっと友達に見せびらかしたのだろう。
そんなことからじわじわと
チベットの美術品がカトマンズに流出していることが
世界のディーラーたちに知られるようになった。
僕はそんな宝の山に踏み込んでいたのだ。

ある時何も買えなかったので、
パオを10着ばかり買い付け日本に持ち帰った。
あちこちコレクターに声をかけたが、
日本ではあまり人気がなく売れなかった。
仕方がないのでプライドを抑えて
布地を取り扱う同業者に持っていった。
パオを見せると買値の3倍ほどで全部買ってくれ、
「幾らでも買ってあげるから持っておいで」と言われた。

あとから聞いたことだが
古い切地は茶道具の袱紗や掛け軸の表装などに使うらしい。
僕は餅は餅屋に頼めば早く売れるということを学んだ。