島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第138回

<とぴっく10>
アジアのリッチマン
<フィリピンの新興財閥―こうして儲けた不動産ビジネス>
 
元染魚文

この国のビジネスは蜘蛛の巣のように張り巡らされた
複雑な人間関係で成り立っている。
フィリピンには幾つかの財閥グループがあるが、
儲かるビジネスはそれらの企業が殆ど独占している。
だからそこにくっついている人達は皆とてもリッチだ。
旧宗主国スペイン系の財閥と、
マルコスを頂点とした新興財閥グループだ。

後者の政商グループの一人にヤッコさんという人がいた。
スペイン系の血が流れているらしく、
彫りの深い顔だち、薄い緑色の瞳の彼は
「カッコいいでぇ!」と声でも掛けたくなるほど男前だ。
ヤッコさんはあちこちにビルやホテルといった不動産を持ち、
建設業などもやっている。
彼の一日は大統領の息のかかった経済界の人達との
マカティのホテルでの朝食会から始まる。
そこで得た情報をビジネスに生かし、
プロジェクトをまとめ上げるのだ。

彼の趣味のひとつは骨董で、
そのことをマニラで知らない人はいない。
僕はある日、エルミタ通のBMという骨董屋で彼と出会った。
何が切っ掛けか忘れたが、
それからしばらくして彼の家に招待された。
2,3百坪くらいの家が200戸ほど建っている一角すべてが
彼の所有地だった。
その一帯を高い塀がぐるっと取り囲み、
敷地に入るにはガードマンのいるゲートを通らなければならない。
そこを通りながら彼は
「こんな風にしておくと治安の悪いマニラだから、
 中金持ちの人達や海外駐在員がみんな高くても借りてくれる」
と言った。
さらに
「ただみたいな椰子の木や、
 なんぼでも育つブーゲンビリヤやハイビスカスを植えておくと
 見映えもよく、環境もよくなる」
と続けた。
今はこのコテージ風な住宅の借り手が順番待ちだそうだ。
こんな住宅街が彼の財産作りのノウハウだ。

                   (この項続く・・・)