バンコクにリバー・シティと言う 骨董屋の集まっているビルがある。 その中に僕の古くからの取引先がある。 そこでの話。
店頭の品物をネゴしていると話が長引くと思ったのか、 店主が「ちょっと」と言って外出してしまった。 店番の奥さんも昼食を買いに行くと言う。 「ノリキさん、20分ほどお願い」 と、微笑みながらヴィトンのポシェットを担いだ。 彼女がドアを開けると同時に、 20代後半と思われる白人の若者が入って来た。 奥さんは若者の服装をジロッと値踏みして、 客にならないと思ったのか言葉も掛けず出て行ってしまった。 Tシャツにペタンコのサンダル、 ジーンズはポケット辺りが擦れて糸もほつれている。 当時1980年代後半はまだ男性のピアスが流行る前だったが、 彼は片方の耳に銀のピアスをしていた。 カジュアルだがどこかすっきりとしていた。
こういうネオ・ヒッピースタイルは、 骨董屋の客にならないことを僕も良く知っている。 僕の店にも、時々あつかましく入ってくるこの手合がいる。 店の中で座り込み、いつまでも立ち去らないので、 聞いてみると画家だったり陶芸家だと言ったりする。 さすがにピカソぐらいは知っているが ダリもムンクも平山郁夫も知らないのが殆どだ。 今絵を描いているから画家だと言っているのだろう。 ヒッピーもトラベラーも職業くらいに思っているのかもしれない。
(続く・・・・)
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