香港ハリウッドロードの両側には、 大小の骨董屋がひしめいている。 通りに面した高級店には数千万もする殷、周の銅器や、 唐三彩の馬や駱駝も置いてある。 スポットを浴びて浮かび上がる品々は チョッとした美術館のものより上かもしれない。 そして店内にはここを訪れた著名な政治家や、 財界人の写真が飾ってあったりする。 そんな高級店で仕入をしていては僕の商売は成り立たない。 昨今、この業界もかなり厳しい。 デフレが続き海外高、日本安の状態になっているからだ。 しかし、物価の高い香港での仕入でも、 大陸から直接運んでくるような店で買い付けをやると、 それなりに値打ちモノに出会うことがある。 今日もそんな店の一軒に入った。
「何か良いものないの?」と言うと、 「少し待ってくれ。今面白いものを持ってくる」 と言って、せっかちな店主はどこかへ行ってしまった。 10分程して赤いバサバサの大陸のトイレットペーパー (水に流せないヤツ)で包んだ荷物を抱えて帰ってきた。 この紙は実に埃っぽく手に付くと身体が痒くなる。 藁を原料にしていると聞いた。 紙包みを解き終わると北斎時代の牛俑が現れた。 長い天を突く角、背中の瘤、がっしりと踏ん張った足が感動的だ。
「幾ら?」と聞くとアメリカドルで9000ドルだと言う。 高級店に並んでいればこの値段でも安いと思うが、 この店は殆どの品物が500~1000ドルくらいのものなので 「たかいなぁ~。3000でどう?」と値切った。 「牛の尻を見ろ」と言う。 覗き込むと小さなドリルで開けた 直径1ミリくらいの穴が開いていた。 さらに店主は茶封筒中から、写真つきの証明書を取り出した。 香港大学の時代鑑定の証明書で、 北斎時代(AD550~577)に掛かる1400年以前のもの と書かれていた。
いつもは思い切り値引きしてくれるのに、 この牛はなかなか値段が下がらなかった。 1時間ばかり厳しい交渉をし、 ここが落としどころだと考えているところへ、 70歳くらいの痩せ型で背の高い男性と、 濃紺のスーツを着た若い女性の二人連れが入ってきた。
※マカオはカジノビジネスが1年で約50億米ドルといわれている。 彼はそのカジノの経営者の一人だった。
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