2,3Fにも先程の店と同じような運び屋を兼ねた骨董屋がある。 狭いエスカレーターを駆け上がった。 そして2階の女店主の店に入った。 ここで素晴らしい唐の加彩馬を見つけた。 大きさも手ごろで傷も少ない。 駻の強い顔とパッチリとした目、尾には花が巻きつけられている。 何より早く走りそうなサラブレッドだった。
値段を聞くと4000USドルだと言う。 彼女はどんなに値切っても、 いつも5~10%くらいしか値引きをしてくれない。 この買い物も3500ドルで手を打った。 そこへ先程の秘書連れの老紳士が入ってきた。 「又会いましたね」と今度は彼が英語で話しかけてきた。 しかし全く僕の顔を見ず、テーブルの上の馬を見ている。 これはもう買うと約束しているので先程と違い、安心だ。
彼が中国語で女店主に何事か聞いている。 「売れたのか?幾らだ」と言っているようだ。 「この馬売ってくれませんかと、聞いてますが?」と女店主。 「ダメですよ。下でひどい目にあったんだから」 「6000USドルで是非譲ってくれと言ってますよ」 グラッと来たが断った。 すると老紳士が僕のほうに顔を向けた。 「馬が好きでコレクションしているのですよ」と言い出した。 「この方マカオの○○さんと言って競馬場のオーナーの一人です」 と女店主が僕に紹介してくれた。 そして「カジノも二つ持っているのですよ」とさらに付け加えた。
競馬場やカジノビジネスは 景気の好不況にあまり影響されないらしい。 景気がよいとギャンブラーにも金が回ってきて一瞬の夢にかける。 不景気になると一発なけなしの金を張る。 カジノのオーナーには どちらに転んでも売上の数パーセントが入る。 それに他のビジネスと違って、 一度設備投資をしてしまうと後はよほどのことがない限り、 金が毎日流れ込んでくる仕組みだと彼女がいった。
金持ちになろうと思えばこんな仕組みを作ればいいのだ。 認可や資本で苦労はするが、 思えばNTTもボーダフォンも免許を取って線を引いて、 じっとしていれば通話料が入ってくるので 同じようなものかもしれない。
僕は自分の生き方に誇りを持っているほうだが、 しかし情けないことに競馬場とカジノのオーナーと聞いて、 口が意思に拘わりなく声を発してしまった。 「いいですよ」彼は僕の方を見ず、 女店主に二言三言指示し行ってしまった。 冷たい横顔をにこりともさせずに。
|