骨董に流行り廃りがあるといえば、 知らない人は「へぇ~!」とびっくりする。 骨董と言うからには 最低でも150~200年くらい経っていなければならない。 僕らが取り扱う品は、1000年や2000年経っているのはザラ。 だからそんな古いものに流行があることは、 あまり知られていない。 しかしきっちりあるのだから用心しなければならない。 価格が大幅に動くのだ。 僕の骨董経験はせいぜい30数年のこと。 この道50、60年も経験した人なら 流行り廃りの大きな波を5、6度はくぐっているはずだ。 それでは僕なりの経験を書いてみよう。
30年ほど前、Y先生という古伊万里の研究家がいた。 本業はお医者さん、風貌は経済評論家の内橋克人先生に似ている。 その先生が古九谷、有田説を発表された。 業界は、このことでかなりにぎわった。 さらにY先生は古伊万里の本をどんどん出版され、 次々と新しい切り口を展開していった。 事実を検証し、それまで古伊万里という 大雑把なくくりであったものを、 初期伊万里・盛期伊万里などと時代も分類し、 魅力的な伊万里の世界を世に問われた。
すると初期伊万里など、 それまであまり注目されなかった作品が大きく値を上げだした。 初期伊万里(161年頃~1670年頃)の吹墨の兎の図などは、 直径21cmくらいのもので 焼き上がりが良いと300~350万円位するようになった。 こうなると火がついたように 皆初期伊万里の作品を求めるようになった。
「先生、初期の良い皿ありませんか?」と尋ねたところ、 「沢山持っていたが、もう一枚もないよ。 次は中期だな!僕は今『盛期の伊万里』という本を書いている。 絵付の良いのを買っておきなさい。」と手の内を見せてくれた。 「それ2、3点譲ってください。本に収録されるのを」と言うと、 「自分で集めなさい」とびしっと決められた。 そのブームに乗って、多くのコレクターが盛期伊万里を買った。 その兎の皿は今せいぜい120~150万くらいだろうか? 骨董のマーケットなんて狭く、浅いものだ。 誰が何をやっているか注意しているとよく見える。 株や土地、金なんかよりよほど分かりやすい。 マーケットが巨大だとどうしても色々な要素が絡んでくる。
骨董は値下がりのカーブもまたゆっくりとしている。 敏感なコレクターが売りに回っているときでも、 他のコレクターはまだせっせと買っているという調子だ。 美術館の展示や出版物、雑誌の特集などに目を配り、 熱が上がる前によい物を選び、そしてピークを逃さず売る。 こんな目配りをしながら骨董を楽しもう。 ブランドはこうして作られる。
魯山人、九谷、ガレーやドームなどのアールヌーボ、 この20年ほどの間に色々なブームが何度か生まれ消えている。
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