島津法樹さんのコラム
初出は「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)に
2004年8月から2005年11月まで連載された「損する骨董得する骨董」です。

第168回

儲かる骨董-実行編
3、転がっていた金2000両幻の小壷
宋漢作茄子茶入

日本美術と聞くと「茶の湯の道具」が思い浮かぶ。
茶道は古くから我国美術界での大きな分野を占めている。
建築・庭園・書画・陶器・木工etc.
しかしこれらの作品は用いると言うコンセプトで統一されている。
だから茶人はどんな良いものでも、
用いることが出来なければ触ろうともしない。
作品を薦める時など、時代や希少性、美しさなどより、
「使えますよ」の一言が大切だ。
僕はその後に様々な説明を付け加える。
そんな風だから一つ面白い話を披露しよう。

香港で小さな褐色の小壷を見つけた。
高さ7.5cm、胴径が8cmくらいのものだった。
一目見て、宋代に作られた漢作茄子茶入に間違いない
と思い購入した。
かつて大名物の茶入で
大阪より金200両でお買い上げと記された名器と同手のものだった。
現地ディーラーは日本でどのように評価されているのか知らない。
床に転がってしている。

ホクホクした気持ちで日本に戻り店で荷を解いていると、
茶人として名高いS会長がやってきた。
チラッと僕の手元を覗き込み
「何だ、掘りの手か」といった。
本当に買いたいものを厳しくけなすのは常識。
「僕の店の品は100%発掘物ですよ」と切り替えした。
すると、「早くよこせ」と言って
僕の手から小壷を取り上げてしまった。
S会長はいつも紳士でこんな乱暴な行動はしないのに
相当興奮しているのか、この時は地が出たようだ。

「幾らだ?」と言うから思いっきり高い値段を言おうと思ったが、
つい、いつもの癖でやや安め「50万円!」と言ってしまった。
僕もこの小壷の値打ちはよくよく知っている。
松永弾正が自身の命乞いと信長の機嫌をとるため、
同種の茶入を差し出している。
きれいに洗って、せめて桐箱に入れて売りたかったが、
荷解きしている傍で取り上げられると、
思っている値段の半分も言えなかった。