日本美術と聞くと「茶の湯の道具」が思い浮かぶ。 茶道は古くから我国美術界での大きな分野を占めている。 建築・庭園・書画・陶器・木工etc. しかしこれらの作品は用いると言うコンセプトで統一されている。 だから茶人はどんな良いものでも、 用いることが出来なければ触ろうともしない。 作品を薦める時など、時代や希少性、美しさなどより、 「使えますよ」の一言が大切だ。 僕はその後に様々な説明を付け加える。 そんな風だから一つ面白い話を披露しよう。
香港で小さな褐色の小壷を見つけた。 高さ7.5cm、胴径が8cmくらいのものだった。 一目見て、宋代に作られた漢作茄子茶入に間違いない と思い購入した。 かつて大名物の茶入で 大阪より金200両でお買い上げと記された名器と同手のものだった。 現地ディーラーは日本でどのように評価されているのか知らない。 床に転がってしている。
ホクホクした気持ちで日本に戻り店で荷を解いていると、 茶人として名高いS会長がやってきた。 チラッと僕の手元を覗き込み 「何だ、掘りの手か」といった。 本当に買いたいものを厳しくけなすのは常識。 「僕の店の品は100%発掘物ですよ」と切り替えした。 すると、「早くよこせ」と言って 僕の手から小壷を取り上げてしまった。 S会長はいつも紳士でこんな乱暴な行動はしないのに 相当興奮しているのか、この時は地が出たようだ。
「幾らだ?」と言うから思いっきり高い値段を言おうと思ったが、 つい、いつもの癖でやや安め「50万円!」と言ってしまった。 僕もこの小壷の値打ちはよくよく知っている。 松永弾正が自身の命乞いと信長の機嫌をとるため、 同種の茶入を差し出している。 きれいに洗って、せめて桐箱に入れて売りたかったが、 荷解きしている傍で取り上げられると、 思っている値段の半分も言えなかった。
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